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2013年12月19日 (木)

忘れた頃の官能小説

 ふと、10年以上前に書いた短篇小説を想い出したので、恥ずかしながら貼り付けてみます。タイトルは、「ガラスの女」。

 かなり昔のことなので、もうよくは覚えていないが、とにかく俺は疲れ切っていた。月も出ていない、ことさら暗い夜だった。

俺は、その夜限りの相手を探して池袋をうろついていた。風俗店はもちろん、キャバクラのような水商売の店も多かったが、その夜は素人を相手にしたかった。だが極めて小心者の俺がナンパなどできるはずもなく、くすぶった思いを抱えつつ、あちこちをふらふらさまよっていた。

サンシャイン通りから外れ、豊島公会堂の前にある公園のベンチに腰掛けて休んでいたら、見知らぬ男が声をかけてきた。

「お兄さん、面白い遊びしませんか」

夜にもかかわらず真っ黒なサングラスと、派手なアロハシャツ。まるで絵に描いたような一昔前の遊び人という風体の三十男だった。

「遊びと言っても、いかがわしいもんじゃありません。簡単なゲームですよ。要はお見合いです。同じ数同士の男女でお見合いをして、お互いが気に入ったらカップル成立、ってわけで」

言葉とは裏腹に、どう見てもいかがわしい男の口車に、なぜそのとき従ったのだろう。俺は言われるがままに男に一万円を払い、付いていった。

五、六分歩くと、古めかしいスナックやバーが立ち並ぶ一角があった。男はその中の、特に古ぼけた店に入っていった。そこには確かに四、五人ずつの男女がいて、陽気に飲んだり騒いだり、カラオケを歌ったりしていた。

「さ、さ、あなたも加わって。一時間後に、告白タイムといきましょう。それまでどうぞ御自由に」

つまりは、十年以上前に流行ったねるとん形式のパーティだったのだ。そんなものをいまさら、なぜこんなところで。

だが、普段なら大勢で騒いだりするのが大嫌いなはずの俺は、なぜかこの日に限って積極的に輪の中に入った。

他の「参加者」たちがどんなふうだったか、あまり覚えていない。しかし見るからに堅気ではなさそうだった。きっと男はホストくずれかポンビキ、藥の売人あたりで、女はソープ嬢か立ちんぼといったところだ。だが俺と同様、たったひとりだけ、堅気に見える女がいた。黒いノースリーブのワンピースを身にまとった女は、胸元までかかるソバージュの髪で顔はよく見えなかったが、色がやたら白く、やせていた。

周りに合わせ、下卑た話題を口走りながら、俺はその女を観察した。女は視線を下に向けながら微笑んでいたが、それが心からのものでないことだけはわかった。

一時間が過ぎ、さっきの男が戻ってきた。

「さ、お決まりでしょうか」

俺はEカップはあろうかという胸をタンクトップで覆っている、ショートカットの女の子を選んだ。そして例の女は、大リーグに行った新庄剛志に似た金髪兄ちゃんを指名した。そしてどちらとも不成立だった。

「残念でございました」

 案内の男はそれだけ言うと、足早にその場を去った。そして他の男女もそれに続くように、そそくさと店からいなくなった。残されたのは俺と、例の女の二人だけだった。

騙されたことは明白だったが、不思議と俺は腹が立たなかった。そもそも最初から俺は、騙されたいと思っていたのかもしれなかった。

俺はよろよろと立ち上がり、店を出た。ふと気づくと、路面が濡れていた。わずか一時間の間に、結構な量の雨が降ったらしい。

酔って、おぼつかない足取りでしばらく歩いていると、突然、肩に手を回された。あの女だった。驚いて女を見たが、女は俺に視線を合わせようともせずに、ただふらふら千鳥足で歩いた。すでに俺が店に入る前から、かなり飲んでいたようだった。

二人は肩を組んだまま、あちこちをさまよい歩いた。ときどき、ぬかるんだ地面に足を取られたが、水たまりもよけようとせず、靴を濡らしてうろつき廻った。歩きながら下を向いて、女はつぶやいた。

「あんたのことは、好きじゃない」

そう言われたときには、既にこの女が誰なのか、俺はわかっていた。女は大学時代、同じサークルにいた友達だった。大学を卒業して、シカゴへ行ったという話を聞いていたが、その後のことは知らなかった。

「あんたのことは……好きじゃなかった」

女は呂律が怪しくなりながら、自分に言い聞かせるように、何度も同じ言葉を繰り返した。俺はただ黙ってそれを聞いていた。

さんざん歩き疲れた俺たちは、どこかの広大な空き地を見つけ、張り巡らされたロープをくぐって入っていった。

古いビルが取り壊された跡なのだろう、雑草がぼうぼう生えて、土がじめじめ湿った陰気な場所のまん中に、ぽつんと小さな小屋があった。一応コンクリートで造られているので、モーター室か何かだろうが、外の壁は天井の部分と、横の壁の一面がなかった。

二人はその小屋に入るなり、倒れ込んだ。もう口を利く気も失せていた。女もそうだったろう。俺は寝転んだまま、緩慢な動きで女に襲いかかった。

「だめよ…あんたのことは好きじゃないんだから」

そういいながら、多少けだるそうに女は抵抗した。俺は構わず、ワンピースを引き裂き、下着をむしりとって、中に入れた。

気が付くと、女はいなかった。疲労と、身体の節々の痛みをこらえつつ、俺は起き上がって小屋の外に出た。

そこに女はいた。

彼女は、壊れたガラスの破片になっていた。月の光もないのに地面にキラキラ光る、ガラスの破片のひとつひとつに、女の全身が映し込まれていたのだった。

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